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すろ〜ふ〜ど HowTo企画 『シナリオ編3』 |
あけましておめでとうございます。
というわけで、半端マニアソフトによる役に立つのか立たないのかわからない
シナリオ講座も今回で最終回となりました。
ではまず、渡辺僚一のコメントからどうぞー。
| あ〜セックス、セックス……。 はいHowtoシナリオっちゅうか、僕はこんな風にノベルゲームのシナリオを書いてます、ということをあーだこーだと書くコーナーも今回で終わり。 まぁ、いろいろ書いたけど、単純に言えば他のスタッフのことを考えながら書けばいいんじゃねぇのかオラッ、ってことですよ! 僕が伝えたいことはそれでオーバーだぜっ。 んじゃ、まぁ、そういうことで。ぼちぼちと行きますか。 言いくるめられて越智さんの彼氏になってしまった近江君のこれからは!? そしてSF色はこのままなくなってしまうのか! そんな煽りを自分でがっつし入れてしまうくらいテンション上げてぇGO! |
| 前回と同じく、 以下コメント部分では、こうやって赤の枠と青の枠に囲まれたコメントが登場しますが、これが渡辺僚一(赤)・木緒なち(青)それぞれのコメントとなりますので、 ご参照いただければと思いますー。 |
()このカッコ内の文章はスクリプト担当さんや絵描きさんやその他のスタッフへのメッセージや、自分のためのメモです。
普段は、口頭で伝えたり、印刷した紙にペンで走り書きするようなメッセージも文中に付け加えてあります。
……んっ? 飛び回っていた越智さんがピタッと停止した。 そして、ぎぎぎっ、と歯車の回る音がしそうなぎこちない動作で海を見た。 近江「どうした?」 !? だっ、と砂を蹴って越智さんが信じられないスピードで急接近。 近江「なっ……え?」 越智さんは俺の手首をギュッと握って引っ張りながら、蹴るように足を払った。 近江「うわっ!」 ぐるん、と視界が回転した。 (ドサッ、という音) 近江「うっ!」 合気道の技をかけられたみたいに、砂に叩きつけられた。 近江「おい、なにを……。えっ? えっ?」 えっ? 越智さんの右手が、 裂けた。 ポテトチップスを踏み潰した時のような音をたてながら、 縦についた手首の長い傷口にそって腕の皮がめくれ上がる。 ……はぁ? 皮は手首の下を起点に腕から離れて広がり、 直系1.5メートルくらいの傘のような形に変型した。 近江「うわっ!」 (画面に閃光) カッ、強烈な光。 (画面を揺らして) 熱い突風が全身にぶち当たる。 近江「うわわっ!」 なんだ? なんだ? なんだ? 越智さんの右腕にできた肉傘が、爆風を受けて円錐状に歪んでいた。 なんで? なにが? どうして? なんで? 心が、沸騰する。 永遠のような一瞬。 無数の疑問だけが、無意味に頭を駆け抜けていく。 越智「立って!」 腕を掴まれて引きずり起こされた。 舞い上がった砂が、雨のように降りそそぎ、ベチベチ、と夕立のような音をたてる。 鼻の奥の方で酸味を感じる、焼け焦げた匂い。 そして、 近江「なんだこれ?」 煙る砂浜にクレーターができていた。 今ここで何かが爆発した証拠だ。 近江「おい!?」 越智さんの右腕は傘の形になったままだった。 見間違いじゃなかったのだ。 どうして、そんなことに? 意味がわからない。意味がわからない。 心臓が焼け焦げそうなほど熱い。 脳の真ん中がチリチリする。 太股の筋肉がビクビク痙攣する。 体が目一杯、疑問に反応している。 どうしたらいいのかわからないまま動こうとしている。 なのに答えが出てこない。体じゃ答えは出せないのだ。 どんどん積み重ねられる疑問のせいで、全身がどんどん痛くなる。 越智「二撃目がくる!」 越智さんはテトラポットとテトラポットの間にできた、 かがめばなんとか入れそうなほどの隙間を指さした。 越智「あそこに入って」 近江「えっ、おい、どういうこと……」 越智「早く入って!」 どんっ、と背中を押された瞬間、圧力鍋みたいになっていた体に穴が空いた。 俺は飛び跳ねるように隙間に転がり込んだ。 (画面真っ暗) ………。 ………。 ………。 (無音でちょっと間を入れてカツカツカツという足音) ………。 ………。 ………。 (背景・シェルターの中) ……頭が変になって、バカみたいに騒ぎまくってもいいのに。 心がぼんやりしている。 酒を飲んで騒いだあとに訪れる一瞬の空白が、ずーっと続いているみたいだ。 ……混乱しすぎると俺はこんな風になっちまうのか。 ……こんなの自分は初めて見るぞ。 隙間の先にあった下り通路を転がり落ちた先は、 高さ2メートル横10メートルくらいの正方形の部屋だった。 天井から薄い光りを放つ白熱灯。 部屋の壁には時代物っぽい赤色の受話器とコンソールパネルがはめ込まれている。 隅には「救難」と黒字で書かれた白い袋。 その横には「IOBA」と書かれた30センチ四方の銀色の箱。
近江「なんでテトラポットの下にこんな部屋があるんだ?」 越智「………」 越智さんは俺に背を向けてコンソロールパネルを左手で操作していた。 右腕から傘は消えていたが、新しくできた傷口から、血がぽたぽたと落ちていた。 近江「それとその腕はなんなんだ?」 越智さんは背中を向けたまま、 越智「ここはシェルター。腕は変型(トランス)」 近江「シェルター? トランス?」 越智「話が長くなるけどいい?」 振り返った越智さんは、上からヒモで引っ張られているかのように、 小刻みに震えていた。 まるで壊れかけのロボットのようだ。 床を探せば、外れたネジが転がっていそうだ。 俺は生唾を飲んで、 近江「いいよ」 そう答えて、越智さんを見つめた。 越智さんは、ぎこちなくうなずいて、口を開いた。 越智さんの話3 (背景・線の太い教育的な絵本っぽい背景。森の中とかそういう感じで) (新登場。絵本ちっくなフクロウと、なずなの服に書かれていた狐のファンシーなキャラ) フクロウ「都市でのテロを成功させる方法はなんだと思う?」 狐くん「うーん なんだろう?」 フクロウ「無害そうな実行犯に無害に見える武器を持ち込ませることだよ」 狐くん「トランク型核爆弾を持った少女なんて最適だね!」 ・場面転換 (ここも一枚絵を分割して使う。白い病室。全身に包帯を巻かれて寝ている少女。この少女は越智さんの話1に出てきた少女。彼女は小さい頃の越智さん。越智さんが寝ているベットの横には眼鏡をかけた人の良さそうな白衣の研究員。桜野と書かれたIDカードを首からぶらさげている) (ピッピッピッピッと心電図の音) (画面はぼんやりとしたものからじょじょに鮮明になっていく感じ)
……なんだ。つまらない。 まさか再び目を開くだなんて思わなかった。 核を起爆させたら、凄い光りと凄い熱を経験するって聞かされていたけど、 想像していたよりずっと凄かった。 本当にびっくりした。絶対に死んじゃったと思ったのに……。 越智「死んでなかったんだね」 桜野「生きてるよ」 桜野さんは無意味に優しくにっこり笑って言った。 越智「ここ日本の研究室だよね?」 どこの研究室もほとんど同じ作りで、同じ匂いがする。 だから見ただけじゃどこの研究室かわからない。 どうしてそう思ったのかよくわからないけど、私が目を覚ますなら日本だろうなって。 だからここは日本のあの研究室じゃなきゃいけないんだって思った。 桜野「あの事件以降、日本は被爆治療が進んでることになってるから 即搬送も疑われなかったよ」 越智「んっ」 桜野さんが私の頭をくすぐるようになでた。 頭以外の場所もむずむずする、いつもの変なさわり方。 ……他の人のなで方とは違うんだよね。 桜野さんは指が器用だから自然とこうなっちゃうのかな。 桜野「キミの体は、僕ら以外の誰にも調べられてないよ」 そんなの当然じゃない。 あなた達以外の誰かに体をさわられるだなんて、 想像しただけで寒気がする。 そんな当たり前のことを自慢げに言った桜野さんに意地悪をしたくなった。 ……私がこういうことを言えば、桜野さんはきっと困るだろう。 そういうことを言ってやろうと思った。 越智「次はいつ爆発させるの?」 桜野「そんなことより今は臓器と人工皮膚(アプグラ)を変えることを考えないと」 困った顔をして、話を逸らす。 私よりずっと大人のくせに、どうしてこんなにわかりやすいんだろう? もっと意地悪してあげるね。 越智「私を改造したこと どう思ってる?」 桜野「キミは研究員全員の誇りだよ」 そんなことを言ったら、私が喜ぶとでも? もしそう考えていたら、どうしようもない人だと思う。 越智「あなた達のこと大嫌い」 桜野さんは笑顔の下に物凄い量の困惑を隠している。 このまま虐め続けたら、桜野さんは悩みすぎで死んじゃうんじゃないかって、 不安になる。 ……こんなことくらいでそんな風になっちゃってさ。 悩みすぎで死んじゃいそうなのは私なはずなのに。 女の子に気を遣わせるような頼りないこんな人じゃ、 きっと、彼女なんかできないんだろうな。 本当に、もう。 越智「だけど好きでやってるんじゃないって知ってるから、許してあげる」 桜野さんはもう一度、私の頭をなでた。 私が再び気を失うまでなでていてくれなかったら、 また困らせてやろうと私は考えていた。
・場面転換 (フクロウとキツネの会話) フクロウ「トランク型核爆弾が成功してからどの国でも持ち物検査が厳しくなったんだ」 キツネ「それじゃテロはできないよ」 フクロウ「大丈夫 武器を携帯しない子供を送り込めばいいんだ」 キツネ「武器がなきゃテロができないよ」 フクロウ「発見されない武器を作ればいいんだよ」 ・場面転換(無機質な廊下。金属製の熱いドア。ベンチ) (越智さんは15歳。持っているマグカップにフクロウの絵。ここは二枚くらいのイベント絵を分割して使うといいかも) ロックの外れる音が響き、金属製の厚いドアが開く。 なずな「んしょ、っと。あっ、越智ちゃん!」 ぴょんと飛び跳ねるようにしてなずなは私の隣の座った。 越智「はい、お茶」 なずな「うわぁ〜、ありがとう」 なずなはマグカップを受け取り、嬉しそうにお茶をすすった。 越智「身体検査、どうだった?」 なずなは困ったように、にゃはは、と笑って、 なずな「過剰変異(オーバートランス)しかかって エーテル剤を打たれちゃった」 越智「また? 桜野さんも大変じゃない」 エーテル剤を打ったら、体に異変が出ないか、しばらく付きっきりで様子を見なくてはいけないのだ。 なずな「んっも〜、私の心配は?」 越智「あっ、ごめんごめん、大丈夫?」 なずな「も〜。もしかし、眼鏡さんが私につきっきりだから嫉妬してる?」 越智「そんなんじゃないってば!」 なずなは何が楽しいのか、けらけらと笑ってから、不意にうつむいた。 最近、なずなの感情の波が変。物凄く不安定になっている。 だから私は、前のようになずなが怒鳴って暴れて泣き出したらどうしよう、と、 ちょっとビクビクしていた。 なずな「私は遺伝作成器(ゲノムコンポーサー)で作られた人間外(キメラさん)だから不安定なのはしょうがないのかも」 越智「そんな自分が人間じゃないみたいな言い方はやめなよ」 なずな「生後にいじいじされた越智ちゃんはギリギリ人間で、 私がギリギリ人間じゃないのは本当でしょ?」 なずな「孵卵器(インキュベーター)で生まれ育ったしね」 にゃはは、となずなは笑ってから、急に暗い顔をして、マグカップに視線を落とした。 なずな「作戦って越智ちゃんがやった一回だけだよね」 越智「核なら目撃者を一掃できるけ、体内兵器(IOBA)だとそうはいかないから、 投入時期が難しいって言ってた」 なずなは急に右手の人差し指を立てた。 人差し指の肉が、ぐるっ、と捻れ、キュルキュルとドリルのように尖っていく。 その指先をマグカップのフクロウのプリントの部分にあてて、くっ、と力を入れた。 ぽこっ、と指がマグカップを貫通して、フクロウの顔に穴が空く。 越智「なずな?」 なずな「このフクロウ むかつく顔をしてる」 なずなはマグカップにボコボコと穴を開けていく。 なずな「痛いの我慢して遺伝子ごにょごにょ、ナノマシーンいれいれ。 それで使えないなんてバカバカしくないかな?」 越智「作戦なんか ない方がいいよ」 なずな「私達の命って短いのに こんな所にずっといていいのかな?」 越智「……命の話はやめようよ」 命の話をしたら、絶対に、悲しい気持ちになる。 だから私はしたくない。 なずな「あっ、ごめんね。越智ちゃんこの話、嫌いだったもんね」 なずなはマグカップを置いて慌てて謝ると、 ぱっ、と立ち上がって大きく背伸びをしながら天井に向かって、 なずな「あ〜っ 走りたいなぁ〜!」 急に何を言い出すかと思えば……。 越智「トレーニング室に行けばいいじゃない」 なずなは呆れたように私を見下ろし、 なずな「気ままに外を走りたいの」 越智「許可をもらえば?」 なずな「ナビと監視付きでしょ じゃなくて自由に」 半ば怒った顔で私を見ていたなずなは、 ふっ、と肩の力を抜いて空気を入れ直すみたいに、にゃはは、と笑った。 なずな「部屋に戻るよ ばいばい」 越智「えっ うん ばいばい」 手をふったなずなに、手をふりかえす。 なずなが廊下の向こうに姿を消す。 越智「……変ななずな」 エーテル剤の影響で変な気分になっているだけなんじゃないかって、 その時は思った。 ・場面転換 (フクロウは体中に穴があいている。キツネは体中が焼け焦げている) キツネ「改造人間が一人死んじゃったよ 早くテロをしないと!」 フクロウ「その前にすることがあるんだ」 キツネ「それはなにかな?」 フクロウ「敵地で目立たないように 一般常識と集団生活を身につけないと」 キツネ「それなら 学校に通うのが一番」 フクロウ「だけど モタモタしてたら 敵に発見されて報復されちゃうかも」 キツネ「そんなことになったら大変」 ・場面転換 (背景。放課後の教室) (窓に頬杖をついてグラウンドをじっと見下ろしている17歳の越智。制服姿) グラウンドを陸上部員がぐるぐる回っていた。 その中に一人、特に足の速い人がいる。 あれは多分、クラスメイトの近江君だ。 ……薬も器械も使っていないのに、人間ってあんな風に走れるんだ。 女子「何を見てるの?」 後ろから急に話しかけられて、ちょっとびっくりした。 越智「近江君って足が速いんだね」 女子「陸上部だから当然でしょ」 越智「そういえば近江君って練習以外の時も走ってるよね」 思い返してみると、教室にいる時も廊下にいる時も、 近江君はずっと走っているような気がする。 女子「そうかも、家から学校まで走ってるみたいだし」 越智「へー。近江君の家ってどこなの?」 女子「なになに、告白でもするの?」 越智「そっ、そんなわけないでょ。ただ気になっただけだってば」 女子「ほらテトラポットがずっと並んでて まっすぐ行ったら製紙工場のある道……」 とんっ、と心臓が弾んだ。 テトラポットの並んだあの道……。 (なずなが血まみれで倒れている絵を一瞬、ぱっぱっと) ……あの道を、 近江君は、 走ってるんだ。 なずなが最後まで走れなかったあの道を、 毎日、走ってるんだ。
・場面転換 膝の間に暗い顔を埋めて体育座りをしていた越智さんは、 そこまで喋ってから呼吸を止めた。 近江「………」 俺はじっと越智さんの呼吸を待った。 ほんの数秒だったのかもしれないけど、それは凄く長い時間のように思えた。 越智「今は研究員の士気も質が下がってて、情報が漏れた形跡があるから、 報復攻撃があるかもって聞いた」 近江「じゃさっきのって」 越智「10年前にテロをされた国の報復だと思う。 さっきの爆発はCM−HEYHE。超遠距離から個人を攻撃できる小型ミサイル」 ……小型ミサイル。 そんなものが飛んでくるなんて信じられない話だ。 だけどさっきの爆発は錯覚じゃない。 間違いなく本当にあったことだ。 近江「今までの越智さんの話は、全部本当なのか? 嘘だって言っていたことも本当なんだな?」 越智「うん」 越智さんは力無く頷いた。 本当が嘘で嘘が本当で……。滅茶苦茶すぎる。 いろいろなことが起こりすぎて、脳味噌が壊死しそうだ。 越智さんは沈黙している。 俺が何か質問する順番なのだろう。 ……だけど、何を聞けばいいんだ? 近江「どうして核テロなんかしたんだ?」 越智「言われた通りにしただけだから、理由なんか知らない」 越智さんは自分の顔の前に腕を立てた。 ぱきん、と金属が折れるような音をたてて、腕の皮が手首を起点にして剥がれ、 鋭利な刃物のような形になった。 近江「………っ」 見るのは二度目だけど、やっぱり驚いてしまう。 越智さんは髪の乱れでも直すみたいに左手で右腕の皮を元に戻すと、 変にテンションの高まった笑顔で、 越智「私が戦争をする人間に、絶望するのは変じゃないよね?」 あはっ、と元気よさげに笑った。 越智「私が世界に絶望して、死にたくなるのは変じゃないよね?」 ……そうかもしれない……というかそうなんだろう。 きっと、越智さんは変じゃない。 当然すぎるほど当然で、真っ当すぎるほど真っ当な気持ちだと思う。 だからって、 近江「どうしてオレに打ち明けたんだ?」 俺なんかにそんなことを打ち明けたって、どうしようもない。 そんな異常な状況になっている越智さんにしてあげられることなんか、 間違いなく一つもない。 俺に何かを期待しているなら、とんでもなく無意味だと思う。 無意味だけど……。だけど? だけど、なんなんだ? 心に引っかかる。 越智さんが俺に話した理由がわかりそうで、わからない。 越智「……近江君に、聞きたいことがキャッ!」 ドンッ! 凄い音がして、シェルターがぐらぐらと揺れた。 (効果音、画面揺らし) 俺は咄嗟に頭を抱えてうずくまった。 ドカッ! 内臓に直接響いてくる凄い音が再び。 しかもすぐ近くだ。 顔を上げた。 近江「おいおい」 部屋の中央に巨大な瓦礫が落ちていた。 天井を見上げる。 亀裂が蜘蛛の糸ように広がっていた。 細かな埃がぽろぽろと落ちている。 ……崩れるのか? こんな逃げ場のない場所で天井が崩れたら! 越智さんは跳ね起きると、部屋の角に立ち、 両手をそれぞれの壁に押し当てた。 越智「っく 伸びろぉ!」(苦しげに) 叫んだ瞬間、両手の皮がバリバリと音を立ててめくれ上がった。 皮はピッタリと壁に張り付くと、 天井に向かってアメーバーのようにうねりながら伸びていく。 あっという間に、天井は膜のように広がった越智さんの皮で埋め尽くされた。 (ここらへんの表現は絵にするのが難しそう。もし難しいなら書き換える) 腕は原形をまったくとどめていなくて、 肩から先は壁と一体化しているように見えた。 顔は苦痛に歪み、首筋には異様に太い血管が浮かび上がり、 幼児のお腹のようにひくりひくりと蠢いていた。 越智さんの姿は、映画のエイリアンに出てきそうな、異様な生命体みたいだ。 表面は生々しいのに、その姿は現実から遠く離れている。 越智「……っ。くっ」 口端から漏れる苦悶の声を聞くと同時に我に戻った。 へたり込んでいた俺は、慌てて越智さんに駆け寄る。 近江「大丈夫か?」 越智「しばらくは天井を支えられると思う……よ」 近江「そうじゃなくて、越智さんがだよ!」 越智さんは、へへへっ、と笑った。 越智「へいき。伸ばす時にちょっと痛かっただけ。 それより、さっきの話の続きをしよう」 近江「はぁ? こんな時にそんな話……」 越智「なずなが走った理由、近江君ならわかる気がするんだ」 越智さんの口調には切迫した感情がにじんでいた。 そんな風に言われたって、俺に答えられることなんてない。 近江「……他人のことなんか、わかんねぇよ」 俺はただ、走るのが好きだから走ってるだけて、 なずなって人がどうして走ったかなんて、皆目見当が付かない。 越智「そっか」 越智さんは悲しげにうつむいた。 越智「なずなちゃんはひいき目に見ても人間じゃなかったんだ。 だけど走る理由がわからない私の方が、人間じゃないような気がして、 残酷な気持ちになる」 だから、そんなことを言われたってな! 近江「オレは本物の普通の高校生だぞ! テロとか改造人間とか、んなもんに関わってる奴の気持ちなんか、 わかるわけねぇだろうが!」 どうして俺がこんなことに巻き込まれてるんだよ! なんなんだよ、一体! 越智さんはキッと俺をにらんで、 越智「エッチなことをして欲しい」 近江「えっ?」 越智「絶望が消えない時の最後の武器でしょ」 近江「そんなもんで消えるか!」 越智「そっか、そうだよね」 無理だ。 俺に何かできるとは思えない。 何も言うことがない。 越智「近江君は他人なのに、私のわがままに巻き込んでごめんね」 ……あっ! ズキン、と太い物が胸を貫いた。 ……あっ! 大切なことに気づいてしまった。 あっ、あっ、あっ、あっ! くそっ、そういうことかよ! 気づかなきゃよかった! 忘れていればよかった! あーもー、畜生ッ! しょうがねぇ! これはしょうがねぇ! 思い出しちまったんだから、しょうがねぇ! 越智「えっ?」 俺はガッシリと越智さんの肩……肩だった場所を掴んだ。 戸惑う越智さんをしっかりと見つめ、必死に頭を働かせる。 なにを言えばいい? 俺は今、何を言えばいい? 言わなきゃいけないことがあるだろが? なんだ、なんだ、なんだ? 考えろ、考えろ、真剣に考えれば、絶対にわかるはずだ。 俺はそれをしなきゃいけないんだ。 しなきゃいけないんだから! 近江「あっ、あのさ。希望があるから絶望してんだろう? 越智さんの希望はなんだ?」 越智「希望?」 近江「真面目に答えろよ。本当の本気で真剣に真面目に答えろよ!」 目に力を入れる。 越智「人をたくさん殺して、なずなが死ぬのを止められなくて、だから……。 ……自分も死んでしまいたい」 近江「そうじゃねぇだろうが、バカ!」 越智「バカ……かな?」 近江「バカすぎる! そりゃただ絶望してるだけだ。希望だよ。その逆はなんだ? さっきセックスって答えが出た時みたいに、逆を考えろよ!」 もっともっと目に力を入れる。 俺が他人じゃないって、越智さんにわからせるために、 目に力を入れる。 越智「たんさん人を殺したから……だから……。えっと。私は……私は……。 私はたくさんの誰かを助けたい」 近江「それだっ!」 それで合ってる! それが正しい! 近江「越智さんは今 オレを助けてるよな」 越智「私が悪いから当然……」 近江「越智さんは今、走ってんだよ!」 越智「ええっ?!」 越智さんは口をぽっかりと開けた。 近江「したいことしてるっていうのは、俺が走る理由と一緒だよ! なずなって人が走ったのと一緒だよ。 だったらさ、それをやれよ!」 越智「えっ、あっ、うっ、うん!」 近江「なずなって人のことは知らないけどさ、死んじゃったとしても 走れたから満足だったと思うぜ。いやわかんねぇけどさ。 だけど越智さんも死ぬ気で走ってみろよ! 走れりゃわかることもあるって」 越智「……そうなんだ 私は走ってるんだ」 越智さんは、何かを吐き出すような息をして、 越智「私、もっと走りたい!」 近江「おうっ! 走れ!」 急に越智さんは俺から視線を外した。 輝きを取り戻していた目が急速に曇っていく。 なんだ? なんだ? 越智「けど私はきっと殺される」 近江「ミサイルが平気だった越智さんを殺せる奴なんていねぇだろうが!」 越智「だけど捕まって牢屋に」 近江「脱獄手伝う!」 越智「そんなの無理」 近江「解放の署名活動してやる!」 越智「無意味だよ」 近江「権力者になって解放する!」 越智「あははは、そんなのを待っていたら、その頃には私、お婆ちゃんかも」 近江「ばばぁだって走るだろうが!」 越智さんの目から、ぽろぽろと涙がこぼれた。 越智「……どうして、そんなこと言うの? もっと私のこと怖がったり、突き放したりイダッ!」 ビシッ、と越智さんの額にデコピンを食らわせてやった。 近江「さっきよくもオレを他人だなんて言いやがったな」 越智「えっ?」 近江「付き合った初日に彼女を捨てる馬鹿がいるか!」 くそっ、気づかなきゃよかったんだ。 そしたら逃げ出せたんだ。 だけど越智さんは俺の彼女なのだ。 他人じゃないのだ。 そんなもんできる限りのことをしてやらなきゃしょうがねぇ。 越智さんはびっくりして、 越智「私は近江君の彼女なんだイダダイダダッ!」 越智さんの頭に拳をあてて、グリグリとひねり回す。 近江「テメェーが脅迫したんだろ!」 越智「イダダッ! だけど近江君、私のこと好き?」 ちっ、今頃になってそんなこと気にしやがって。 近江「そうなるって予言したのは誰だよ? なら前倒しだ!」 越智「好きってこと? イダダダッ!」 再びグリグリひねり回してやる。 グリグリ、グリグリ。 このバカが、自分の言ったことを思い出せ! 近江「一緒に走ってやるってことだよ!」 越智「そんな優しいことを言ってくれて……ありがとう。 だけど、過剰変異(オーバートランス)したから、私はお終いなんだ。 変型しすぎると戻せなくなる」 戻せなくなる? ってことはこのままか? 近江「研究員なら戻せるんじゃないのか?」 越智「ちょっと無理かも。 それにさっき連絡しようとしたけど、有線も無線もつながらなかったから」 近江「戻らなかったら?」 越智「ずっとこのまま、だから走れない」 はぁ〜? 近江「どうにかなんないのか?」 越智「ごめん」 越智「最後に近江君に優しくしてもらえたから……」 近江「そんなもん、んなもんなっ!」 そんなもんで満足されてたまるかよ! アホらしい! くそっ! くそっ! くそっ! どうにかなんねぇのか! いや、どうにかなんねぇわけねぇよ! ここまで来て、そんなこと認められるわけねぇだろうが! イライラする。 どうして越智さんともっと早くこうならなかったんだろうか? そうすれば、何か手段があったかもしれないのに。 くそっ! 越智「IOBAって書かれた袋の中に私の活動を止める注射がたぶん入ってる」 近江「それを打つとどうなるんだ?」 越智「私の活動が止まるから。入り口も皮で塞いじゃったけど、 力が弱ってきたら、箱の中の工具で切り取れば外に出られると思うからイダダ!」 近江「彼女の活動を停止させる、おもしろ注射なんかこの世にねぇよ!」 ……何かあるはずだ。 このままで終わるなんてこと、あってたまるわけがねぇ。 近江「俺は絶対にあきらめねぇから、越智さんもあきらめるなよ」 越智「あっそうだ。私の首に抱きついて」 何か対処法があったのか? 近江「うん? こうか?」 俺は越智さんに頭の後ろに手を回して抱きついた。 越智「近江君にペースを握られっぱなしで悔しいから……」 越智さんが亀のように首を伸ばす。 越智「ちゅ」 唐突にキスされた。 近江「なにしやがる!」 (ガシャンとガラスの割れる音を) 研究員A「テメーこそなにをしやがるっ!」 なにぃ! 皮で覆われていない部分の壁が唐突にこなごなに砕けて、 白衣を羽織り金属バットを握った男が現れた。 頭上でバットをぶんぶん振り回しながら近づいてくる。 研究員A「テメーッ、ウチの可愛い娘を! うおおおっ!」 研究員B「落ち着け、落ち着け」 研究員C「もう少し様子を見る約束だったろうが」 続けて出てきた二人の男がバットを持った男にしがみつく。 研究員A「けどよぉ、俺はよぉ! テメーら自分達の娘が他の男に 取られそうになってんのによく平気でいられんな!」 研究員C「納得した上でこうしたんだろうが」 研究員B「頼りがいのある少年っぽいじゃないか。安心しろよ」 研究員A「そういうのが余計にゆるせねぇんだよぉ!」 なんだなんだなんだ? どういう状況だこれは? 謎すぎる。変すぎる? 越智さんは苦虫をかみつぶしたような顔で舌打ちをすると、 越智「ちょっとお父さん達! 出てこない約束だったでしょ!」 近江「お父さん達?」 越智さんは気まずそうな様子で、 越智「えっと、研究員の人達で……私の保護者というか、 面倒を見てくれている人達というか、改造した張本人達で、 その、これは、その……あはははは」 近江「あはははは」 越智「あはははは」 近江「あはははは……何がおかしいんだよ? どういうことなのか説明してくれんだろうな?」 研究員A「俺が説明したらぁ! テメーを亡き者にするってことだよ!」 後ろから捕まえられたまま、ぶんぶんバットを振り回している。 越智「だからお父さんは黙ってて! もう二度と口を聞いてあげないよ!」 研究員A「うっ、うう……」 どうやらバット男に対する強い権力を持っているようだ。 越智「えっとね、その……私がね、その……近江君に恋をしてちゃいまして……」 近江「……ほう」 越智「男の子とおつきあいしてみたいんだけど、ってお父さん達に相談したら、 すっごい反対されたんだけど、私はあきらめきれなくて!」 近江「……ほう、ほう」 越智「私って凄く特殊だから、おつきあいするなら、 凄い秘密を共有しなくちゃいけなくなるでしょ。 だからどんな男の子なのかテストしてみようって、話になって……」 近江「そうやって俺をもてあそんでいたと?」 越智「違う違う、ただからかってただけ! イダダダッ!」 近江「調子に乗るなよテメェー!」 越智「冗談、今のはもちろん冗談。本当に心の底から近江君を好きです!」 後ろからバットを男を押さえている二人が、 研究員B「すまなかったねぇ。だけど弥生がいい女の子なのは保証するよ」 研究員C「難しい子だけど我々からもお願いするよ」 ……はぁ。 ったく誰なんですか、あんたらは。 このままだったら俺は気が狂っちまうぞ。 近江「越智さんの言っていることはどこまで本当なんですか? 核テロとか改造人間とかなずなとか」 研究員B「弥生の勘違いもあるけど八割、本当だよ。これは嘘じゃない」 八割ってほとんど本当ってことか。 近江「俺は越智さんとおつきあいすることになって、 今までと同じ日常でいられるんですか?」 研究員C「そんなの無理だよ」 あっさりと言いやがったな、コイツ。 研究員B「だけど多分、命の危険はないよ。 核テロについてはもう手打ちがすんでるから、報復なんてほぼないしね」 ……ほぼ、ね。 研究員B「でもキミは危険だからって考えを変えたりしないタイプでしょ?」 近江「タイプって、こっそり見てただけで俺の何がわかったんですか」 研究員B「まぁ、いろいろね」 研究員A「御託はいいからぶちのめそうぜ!」 越智「お父さん、いい加減にしないと本気で怒るからね!」 どうなってんだよ、これ。 越智さんに相応しい男かどうか研究員に監視されてたってことなんだな。 越智「ゴメン。だけどこれから言うことは一つの嘘もない本当だから。 世界に絶望してる嘘つきな変な女で、命もそんなに長くないけど」 近江「ちょっと待て。命が長くないって本当か?」 越智「えっ? うん、本当だけど?」 俺は研究員を見た。 研究員C「本当だよ」 おいおい、そんなことをどうして平然と言うんだ? 大変なことじゃないかそれ! 研究員B「男女交際を許可しようと思ったのもそれが理由でね。 そのくらいのお願いは聞いてあげたいし、 消えてしまえばある程度は機密保持に気を回さなくてよくなるし」 そんな風に越智さんのことを見てるなんて、変だろう! 怒鳴りつけてやりたいが、なんて怒鳴ったらいいのかわからない。 越智「続きを言うね。そういう半端じゃなくデタラメで迷惑な女ですけど、 少しの間でいいから、一緒に走ってくれませんか?」 しょうがねぇ。 あーもー、いったい俺は今日だけで何度、しょうがねぇ、と思っただろうか。 くそっ! 近江「……わかった。一緒に走ってやるよ」 越智「ありがとう! 私は近江君を愛してるから、近江君も早く私を愛してね!」 越智さんは途轍もなく嬉しそうな笑顔だった。 そんな笑顔を見せられたら、俺は……。 くそっ。 あー、わかんねぇ! だって、越智さんは長くないんだろう? それを知ってて素直に喜んだりできるほど、図太くねぇよ。 そんな無邪気に愛しろなんて言われて、くそっ。 越智「どうして泣いてるの? そんなに嫌だった?」 近江「そうじゃねぇよ。そんなわけねぇだろうが」 越智「じゃ、嬉しくて泣いてイダダダ」 近江「すぐに調子に乗るんじゃねぇって!」 越智「イダダダごめんごめん、ごめんなさい」 走るよ。畜生。 おまえが止まるまで、走るよ。くそっ! くそっ! 研究員A「テメー、うちの娘にキスとかしてみろよ、殺すぞ!」 しっかし、滅茶苦茶溺愛されてるな。 越智「バカじゃないの! キス以上のことだっていっぱいするんだから!」 研究員A「ナヌー!」 近江「俺が言ってるんじゃねぇんだから、俺に殺意を向けるな! うおっ!」 制止を振り切って駆け寄ってきた研究医Aが俺めがけてバットを振り下ろした。 ガツンと床が悲鳴をあげる。 近江「ちょっと待て!」 越智「こんなお父さんなんか無視していいよ」 近江「おまえ、バットを足下に叩きつけられるのを無視してたら普通に死ぬぞ」 越智「近江君、明日からいっぱい走ろうね」 近江「目の前の危機を無視して、笑顔で明日を語ってるんじゃねぇ!」 〜おしまい〜
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というわけで全三回、ライターの反省等もふまえながら、 ノベルゲームの短編の作例をお送り致しましたが、いかがだったでしょうか? 渡辺さんは基本的にプロットをあまり書かないタイプなので、 その都度話が微妙に変化していく場合が多いのですが、 実際にノベルゲームを制作する場合は、勿論あまり大きな変化をさせすぎると 舵が効かなくなるおそれがありますので、注意が必要です。 あと、これも基本中の基本ですが、 短編を書くなら短編、中編を書くなら中編というふうに、 今自分が書いているものを、なるべく構想から外さないようにするのも 大切な事です。もちろん中には、中編で構想した物が壮大になり そのまま長編になって面白くなった物や、その逆というものも あるかもしれませんが、そんなイレギュラーな部分をメリットに出来る ケース等ごく希で、そのほとんどは水増しだったり描写不足だったりで 元の構想に比べてダメダメだったりします。 その辺りを注意しながら、まずは短編から初めて見るといいのではないでしょうか。 (短編を書くと非常に勉強になりますし、中編や長編が、小さなシークエンスの 集合体で構成されているという事を理解するのに丁度いいと思います ) さて次回ですが、今度は『同人におけるデザイン』というお題で お送りしようと考えております。 デザインって言っても専門の知識がいるし…と尻込みされている方の為に、 なるべくお金をかけずに出来るデザイン、というのをご説明しようかなと。 なま暖かくお待ちくだされば幸いです。ではではー。 |
文責:半端マニアソフト